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With コロナ時代の地域の広報・プロモーションを考える(6)栃木県足利市

「With コロナ時代の、様々な地域の広報・プロモーションをどう考えるか」

第6弾は引き続き、栃木県足利市 総合政策部 まちの魅力創出課 まちの魅力創出担当 前川 美帆さんにお話を伺います。


【概要】足利市の市民参加型のシティプロモーションの歩みとコロナ禍における現時点での課題、そして市制100周年のプロジェクト「A100」の取り組みなど、幅広いテーマでお伺いしました。(敬称略)。

*なお、取材は2021年5月下旬に実施したため、内容は当時のものになります。


内容は前号(5号)の続きとなります。

 前回の内容をご覧になりたい方はこちらへ!


シティプロモーションの効果


佐藤:さて、ここまでコロナ禍におけるシティプロモーション、「A100」プロジェクトといったことについてうかがってきました。こうした取り組みの効果というようなものをお感じになることがありますか。 前川:これは効果といえるのかわからないですけれども、今年2月に山火事に見舞われたんですね。1週間くらい燃え続けていたのですが、その間、多くの自治体の方々、自衛隊にも助けていただいて、おかげさまで民家に被害が出ることなく鎮火できました。 その時、テレビや新聞など、メディアでもずいぶん報道されたこともあって、全国に名前が知れ渡ったんですね。そうすると、足利を心配してくれる方が、ふるさと納税というかたちで、すごくコンタクトをとってきてくださって、昨日(5月25日)あたりで2900件、6200万円もの、返礼品なしのふるさと納税をいただいているんです。そのなかで、例えば今まで、こういうつながりで足利に行っていたから、今回こういうことがあって足利を思い出しましたとか、そういうメッセージもたくさんいただきました。 多いのは「足利に住んでいました」「足利に行ったことがあります」「親戚がいます」といったことなんですが、中に、『刀剣乱舞』っていうアニメ(編集部註:作中、足利で打たれた刀が登場する)で足利を知った方から「刀剣乱舞の関係で足利に縁がありました」という方がいました。そういったいろんな方々のパワーが募金額という数字で、こういったかたちでみえてきていますので、そういうのは一つの見える化なのかなあと思ったりします。 佐藤:確かに、私自身の足利市さんへの関係の仕方っていうのもそうなんですよね。ご縁があって、ワークショップに、市外の人間として参加させていただいたなかで、何か一つだけでも魅力と出会うと、その魅力を再体験したいがためにまた足を運ぶ。何度か訪問する回数が増えれば、つながりもできてくるし、触れる魅力も増えていくので、どんどん関係が深まっていく。ふるさと納税の話がありましたけども、じつは私も今回初めてふるさと納税させていただいたんです。そういう気持ちになる距離感というのは、関係人口といっていいのかな、と思ったりもしたわけですが、まさにその関係人口づくりが大変お上手でいらっしゃるなという気がします。 前川:そんなことはないです(笑) シティプロモーションの効果測定ってすごく難しいんですね。私も定量化する手法をアクションプランの中で明記していますし、もちろんカウントするつもりでいるんですけど、それを市役所の内部に説明するときに、どれだけ理解を得られるかというと、やっぱりかなり高いハードルがあってすごく悩みますね。よその自治体でも、効果測定はどうやっているんだろうというのは気になりますね。 佐藤:まさにおっしゃる通りで、どうしても自治体の場合、KPI(重要業績評価指標)を立てること自体がすごく難しい。担当者とその周辺でKPIという概念が理解されていても、利害関係者というか関わる人があまりに多岐にわたる中では、なかなか共通理解ができないことに皆さん苦労されているんだろうなという風に感じます。

情報発信と課題

佐藤:先ほど、山火事の話が出ました。災害時の情報発信は直接のご担当ではないと思いますが、そばで見ていて気づかれたことなどはありましたか。


前川:2019年の台風19号の時の経験をすごく活かして広報セクション、動いていたなあという印象です。SNSでの発信、Twitterでの発信一つにしてもできるだけ行政的な言葉を使わずにこまめにやっていたなあと思います。

家にもパソコンを持ち帰って、メールマガジンを発信するとか、WEB上の更新は24時間態勢でやっていたと聞いておりますので、手前みそにはなりますけども頑張っていたなと思います。


佐藤:災害時にはSNSがより一層必要とされるということでしょうか?


前川:そうですね。SNSはすごく大事だし拡散力あるなと思いつつ、それだけに頼るわけにはいかないと常に思っています。

山火事の時も、情報弱者に対してどう伝えるかというのがすごく課題で、SNSプラス拡声器を付けた広報車を走らせたりとか、そういうことは並行してやっていました。

私が携わっているシティプロモーションは、ターゲットがどんどん若年層になっているので、予算も人も限られる中では、全ての人に対してというふうには思っていません。

ただ例えば、コロナのワクチン接種なんかだと、今対象者が75歳以上だったりしますので、そういった場合の情報発信については課題が多いような気がします。通知のリーフレットの作り方一つにしても、担当課はすごく苦労しているだろうなと思います。


佐藤:そのあたり、庁内向けの教育的な取り組みについては、どのように思われていますか。


前川:インナーブランディングは重要だと思います。重要なんですけど、今役所の仕事ってたいへん複雑化している上に、このコロナ禍でより複雑化が進んで、残業もすごく増えてきているという状況で、シティプロモーションって常に明るい話題、キラキラした話題を提供していかなきゃいけないから、役所の仲間の現状がわかっていると、あんまりそればかり言ってられないなというのが、これは自治体向けのメールマガジンだから言えちゃうことかなーと思いますよね。


佐藤:シティプロモーションっていうと、今、前川さんがおっしゃったように前向きな発信をしないといけないっていう、宿命的に背負っているものがあると思うんですが、役所の情報発信には、どうしたってネガティブな発信もあり得るわけで、そのあたり、どうやってネガティブな発信をうまくやっているか、というのがあればぜひ伺いたいです。


前川:答えになっているかどうかわからないんですけど…これまでに役所が作ってきた、例えば移住パンフレットとかって、キラキラした成功者ばかり載っていたと思うんですよ。

千葉から足利に移住してきた地域おこし協力隊の方が作った「足利の嫁」っていう本は、なんというか、まさに私たちのじゃ気づかないような「ありのまま」が載っていて、とても評判が良いです。

今まで役所が作ってきた既存のパンフレットっていうのは、成功者ばっかりを載せて、いかに足利って素敵なところでしょ?っていう風にやってきたものを、私たちがあえて手放したことで、本当の「ナマの足利」が見える。それがむしろリアルで、響くんだと思うんですよ。なので、今は何か制作物をつくるというときに、直接的には監修はしていなくて、なるべく地域おこし協力隊だったり、高校生だったり、外の目線で作ってもらうようにしているのはあるかもしれません。そうするとできたものがよりリアルになる。役所が作るとね、いいところしか書かないんですよ。


編集部:市役所の中で完結させるのではなくて、地域おこし協力隊や、地域の方と協力して、情報発信、生の声を伝えていくというのはすごく素敵だなと感じました。それによって、今までのキラキラした成功者だけの声ではなくて、ちょっと具合が悪いようなお話とかもあると思うんですけどもそういう声を発信することに対して、庁内の声っていうのはどうだったのかなというのをお聞かせいただけたらと思ったんですが。


前川:さほど抵抗はなかったみたいです。言い方は悪いんですが、地域おこし協力隊が自らやったんです、って言うと、意外と全部が完結します。それを良しと捉えてくれていると思います、足利市は。役所がやったんじゃこんなんにはならないよねーって。市役所じゃできないのだけど協力隊がやってくれたんならいいよね、っていう素地があります。


編集部:そうなんですね。まさにお話に上がった、地域おこし協力隊の取り組みをサポートする土壌がしっかりされているということですね。

一貫して市民のためを思ってやられているという姿勢が子どもたちへの施策も含めてすごいと思いました。


前川:そうですか。ありがとうございます。

まあね、いろいろありますよ。シティプロモーションってこの横文字なんなんだろうとか、電話口でシティプロモーションって言ってもわかんないよなとか、ありますけど、でもいま役所の中の人たちが「シビックプライドのために」とか、うちのセクション以外が普通に使うようになったんですよ。この8年で。「この事業はシビックプライドを醸成し」とか普通に言ってて、すごい嬉しいなと思いますね。


編集部:言葉は大事ですね。キーワードが何なのか、私たちがご縁をいただいた板橋区さんもシティプロモーション課って言葉がついていましたけど、やっぱり言葉がついていると、なんだそれってことで、具体的にいろんな方が興味持たれて、わからないけどそういうものになっていくのかなという風には思います。


佐藤:最後に、ここまでお聞きしてきた足利市さんのシティプロモーションって、前川さんが一貫して関わってこられているという状況だと思うんですけれども、今までやってこられて、どうですか、お悩みとか。


前川:ありますよ、悩み。長くやってきてマイナスなことを言えば、私だけの視点でやっちゃっていいのかな、というのは3,4年を過ぎたあたりからずっとあります。若い方とか他の方の意見を聞き、やっているつもりでも、動かしているのが私だとすると、私の視点とか先入観って絶対入るじゃないですか。なので、ある程度のところで、また別の視点で進めることも必要じゃないか、と感じているところもあります。ただまあ、いる以上は、なるべく市民の方、職員、いろんな方と一緒にやっていこうという姿勢は忘れないように気をつけています。


佐藤:そんな中で、今年度組織が変わりましたよね?〔編集部註:今年度、企画政策課からまちの魅力創出課に変更〕


前川:課の名前は変わりましたけど、メンバーは変わっていないんですよ。ただ、ふるさと納税が我々の課の担務になったり、複合的に取り組めるということでは、やりやすくなった部分はあります。


佐藤:そうですか。今日は足利市のシティプロモーションについて、コロナ禍における現状と展望、そして市制100周年プロジェクトの「A100」を中心に、たくさんのことを、いろいろな角度からお聞かせいただきました。ありがとうございました。

PPEye(Public Partnership EYE)~行政協働の視点から


足利市へのインタビューを終えて


今回の取材先を足利市にした理由のひとつは、今年(2021年)が市制100周年にあたっていることだった。全国で2020年までに100周年を迎えたのは76市。716市については、今年以降、順次迎えていくことになる。

そのプロジェクト『A100』の意義は、市とまちの双方にとって、きっかけづくりになったことだったという。

市民や企業にとっては、これまで関わることの少なかった市の事業への関与や発信が増えた点において「アウトプットのきっかけ」となった。

また市役所にとっては、これまで視野に入ってなかった“まちの情報”に気づき、接点ができたことが今後の施策に役立つという意味で「インプットのきっかけ」になった。

前川さんたちが具体的な取り組みとして「垣根を下げる」ことに努めたことで、見晴らしが良くなり、実際にまちの中の風通しが良くなったということは、協働を考える上で忘れてはいけない視点であろう。


公共広報コミュニケーション研究会 主任研究員 佐藤幸俊


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