公共広報コミュニケーション研究会

矢守先生に訊く 地区防災計画の「ホンマでっか!?」前編:「現場から聞こえてくる4つの誤解」

公共広報コミュニケーション研究会とは?
公共から市民への広報〈今の時代に即した情報の受発信〉に関する研究と事例共有を関東を中心とする500自治体へオンライン・メディア(メールマガジン)を通じて行っている研究会です。
▼これまでの防災広報研究に関する情報はこちら
2021年10月「災害多発+コロナ禍の時代における<防災広報を考える>」オンラインセミナー開催
2022年7月「<生活防災>ふだん→まさかの視点篇」
2022年7月「災害リスクと防災篇」

今回は、昨年のセミナーでも基調講演をいただいた京都大学防災研究所の矢守克也教授の最新著作『地区防災計画学の基礎と実践』の内容を基に、8月3日に行なったインタビューを2回に分けて配信します。「災害の進化に“みんな”と立ち向かう。いつかくる想定外にそなえて、いまできることを。」という同書の思想は、弊研究会の防災広報に対するスタンスと合致していると共に、また自治体職員への情報提供という面においても価値が高いと考えています。

現場から聞こえてくる4つの誤解

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地区防災計画は…行政が行うことではない!?

「行政から住民へ」と防災の担い手の幅を広げ、小さなことでもよいので、住民主体で何かに取り組むこと、それが地区防災計画です。行政はその手助け役です。

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地区防災計画は…計画書を作ることではない!?

計画書やマニュアルなど書類をつくることが目的ではなく、住民の視点、地区の特徴を活かした活動を実際に進めることが地区防災計画です。

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地区防災計画は…どの地区も一緒ではない!?

「お隣では津波避難訓練をしているからうちでも……」ではなく、自分の地区の特徴を活かして、自分の地区にしかない「オンリーワン」の活動を手作りで!

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地区防災計画は…一度きりで終わりではない!?

地区防災計画とは、一度何かを実施して終わりではなく、「計画→実施→ふりかえり→」を繰り返して、改善を重ねながら長期間つづけていくものです。

※「地区防災計画学の基礎と実践」68p 表3-1 地区防災計画の4つの誤解とホント を基に佐藤が作成

佐藤(以下、S):今回は、先生の一番最近のご著書『地区防災計画学の基礎と実践』を拝読致しましたので、その内容を踏まえて、いろいろお聞きしていけたらと思っております。どうぞよろしくお願い致します。

矢守教授(以下、Y):毎回、拙著をお読みいただいてありがとうございます。よろしくお願い致します。

地区防災計画の意義・重要性

S:まずは「地区防災計画」の位置づけや経緯について、お話しいただけますでしょうか。「地区防災計画」は、その発足以前からあった「防災基本計画」や「地域防災計画」をベースにした、従来型のカウンターとして登場してきた、とのことですが。

Y:はい。「地区防災計画」は、直接的には東日本大震災の経験を受けて、新たに始まった制度です。従来、防災に関して、計画と名前のつくものは、二つありました。一つが「防災基本計画」。これは国が防災行政に関する基本を定めた計画。もう一つが、「地域防災計画」で、都道府県や市町村が、それぞれの取り組みに関して作ることを義務付けられているものです。東日本大震災以前は、この二つの計画に基づいて日本の防災取り組みは進められてきて、そしてここは大事だと私思うんですけども、この2階建ての防災計画はそれなりに成果を上げてきていました

ところが1995年の阪神淡路大震災と2011年の東日本大震災という、きわめて大きな被害をもたらしてしまった災害が発生したことで、これまでの2階建ての計画は、小さな災害あるいは中規模までの災害にはうまく機能したんだけれども、非常に大きな災害が起こった時には、国と自治体を中心とした防災活動だけでは、歯が立たないということが見えてきてしまったんです。普段から活動を行っていて、いざその時にも活躍できるような仕組みがない限り、大きな災害には太刀打ちできないというわけです。

こうした経験を踏まえて、そこに暮らしている住民、あるいはそこで活動してきた企業やNGOといった、国・自治体ではない「第三の担い手」、というか、本来防災の中心になるべき担い手による「地区」を中心とする取り組みが必要であるということになりました。

ここで言う地区は、地理的に範囲が限られた村とか、自主防災組織とか、小中学校区といった狭い意味にとどまらず、会社・企業とか、マンションの自治会や、地元の非営利活動法人NPOを主体としたものでもいいと、間口を広くしています。

いわば、それまでの2階建ての防災計画にもう1階付け加わった-例えで言うなら、それまでよりも足元、ベース(基層、縁の下)のところにできてますので、3階というより地下といった方がふさわしいですね-のが、「地区防災計画」だという風に思っていただければよいのではないかと思います。

S:ベースの広がりということでは、すでに5000地区くらいで取り組まれているということですが、最近いくつかの自治体で訊いてみたところ、そこまで手が回ってないんですよっていうお返事も結構あったという印象です。全国的にはどんな感じなのでしょうか。

Y:そうだと思います。この制度が2014年に仕組みとして始まって(2014年4月施行)以来、すでに10年近くが経ちますので、最初0だったものが今数千の地区で実際にこういう計画づくりや計画に基づいた活動が行われています。

5,000というと、随分と進んできたようにも思いますが、日本にはそもそも自治体の数、市町村の数だけで1,700いくつとあって、さらにその小学校区とか、地区防災計画を進められている小さな地区というと、おそらく数十万。千の単位から言うと、桁を二つ上げた数があるわけですね。国全体からみると、まだまだ一部の取り組みであるというのも実情かなと思います。

地区防災計画は…行政が行うことではない!?

S:地区防災計画の4つの誤解のうちの、第1の誤解について、住民としては「それは役所の仕事だろう」と思いがちになるでしょうが、そこの理解を得られれば、役所側としては負担軽減になるという考えもあるかと思います。

Y:この後の話は、役所の方は、むしろ「え、そうなの」と思われるかもしれません。

S:苦労が軽くなるわけではない、という意味でしょうか?

Y:そうですね。もちろん地区防災計画は、住民主体というのが、すごく大事です。

S:それがなかったから、あの大きな災害にさらに被害を増やすことになってしまったという反省ですよね。

Y:例えば避難訓練とか、あるいは備蓄倉庫にある物資の整備とか、そういう今まで役所任せにしていたものを、自分たち“自身でやっていこう”というふうに認識を変えることは、とにかく大事です。なぜなら、震災のような、あんなに大きなことが起こると、自治体の人にしたって、救援にも来れないし、仕事もできないという状態に陥って、そうなると災害に直面しているその人たち自身が、頑張って整えておかないといけないということになるからです。

でも、それは、自動的に役所は何もしなくてもいい、ということを意味しているわけでは、もちろんありません。むしろ、より難易度が高くなると言えます。よく使われる例えに、食べ物がなくて困ってる人に、魚をあげるんじゃなくて、魚の取り方を教えてあげるというのがありますよね。「あげます」では長続きしないですし、あるいはキャパシティビルディングにならない。自分の力で食べられる人を作るための支援をしなきゃダメだという例えとして、いろんなところで使われます。

それはたしかにそうなんですが、住民主体で防災活動を進めるという体制を作ることは、役所が何でもしてあげるよりも、もっと難しい。住民が自分で主体的にやるような体制を整える、その支援をするというのは、役所が何でもかんでもやっちゃうよりも、ある意味で難しいと言えます。

これまでは、自治体の方が筋書きを書いて、人員を配置してやっていた避難訓練を、住民自身で全部運営をして独自にやっていけるようにする、地区ならではの事情を織り込んだ計画を住民自身が作れるようにするのは、簡単なことではありません。

ですから「役所がすることだろう」っていう住民の声に対しては、役所も「皆さんが、自分たち自身で防災のことに取り組めるように、“これまで以上”にお手伝いをします」という意識で向き合うのが重要だと思います。

「何から手を付けてよいのかわからない」

S:今のお話も踏まえると、次の質問は、住民への“お手伝い”にあたっての具体的なヒントにも繋がるかと思います。第2の誤解「地区防災計画は … 計画書をつくることではない!?」に関連して、ご著書の中で、「関係者の間で、「書式」とか「フォーマット」とか「ひな型」とかいった言葉が飛び交いだしたら、むしろ黄色信号点灯」と状況を描かれていますが、これ実際には、この情景がスタンダードなのではないかと思います(笑)。とは言え、何から手を付けていいかわからないという住民の課題があった場合、それへの対応事例がありましたら、教えていただけますでしょうか。

Y:去年のセミナーにも参加された高知県の黒潮町では、地区防災計画を全町あげてもう10年近く進めてきていまして、約60地区全部でやっているんです。もちろん地区によって温度差はありますが

ここで、それまでに取り組んだことを「地区防災計画入門ビデオシリーズ~「まねっこ防災」のアプローチ」として公開しています。

地区防災計画の仕組みや取り組み方について、こんな良い取り組みをしている地区があるから真似しましょうという、映像で学ぶことができる防災教材になっていて、このリンクから黒潮町役場のホームページの該当ページに飛んでいくと、7本ビデオが出てきます。

地区防災計画入門ビデオシリーズ~「まねっこ防災」のアプローチ~│黒潮町公式ホームページ (kuroshio.lg.jp)

その中でいろいろな実例を紹介しているのですが、計画書の見本なんて一本も出てないんです。計画書面すらないところまであるのですが、でもじつに多様な活動が行なわれています。地区防災“計画”という言い方ですが、一番大事なことは、紙を作ることじゃなくって、実際に活動するということなんですね。

〔以下、次号へつづく〕

公共広報コミュニケーション研究会からのお知らせ

昨年10月に開催した防災広報セミナーですが、ご参加いただいた自治体様より「もっと矢守先生のお話を聞きたい!」「他自治体の取り組みをしりたい!」という要望を受け、今年も開催が決定いたしました!
Zoomというオンライン会議ツールを使用して実施いたしますので、みなさま奮ってご参加くださいませ。

【実施概要】
・日時:2022年10月6日(木)15時~16時40分(最大17時)
・場所:オンライン会議ツール(Zoom) ※お申込みいただいた方に参加用URLをご送付いたします。
・参加者:自治体関係者
・コンテンツ
第一部【基調講演】京都大学防災研究所 巨大災害研究センター 矢守 克也 教授
第二部【パネルディスカッション】テーマ:「進化する災害に、地域一体となって立ち向かうため、いまできること」
<パネリスト>
・京都大学防災研究所 巨大災害研究センター 矢守 克也 教授
・東京都板橋区 危機管理部 地域防災支援課
・埼玉県東松山市 市民生活部 危機管理防災課
・公共広報コミュニケーション研究会 事務局長 森嶌正巳

ご参加をご希望の方は以下の情報を下記メールアドレスまでお送りくださいませ。

・自治体名
・ご所属課名
・お役職
・ご担当者様名
・メールアドレス
・お電話番号

メール送信先:pr_sns@teamm2.co.jp
公共広報コミュニケーション研究会事務局 原口宛

ご不明点等ございましたら、メールにてお問い合わせいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。

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